issue-76

雲は嫌な色をしていた。高校の帰り道、赤い電車の窓から覗くあの茜空が好きだった。その空を見た日は全てが上手くいっていた気がする。スタジオにノモトを呼びパーコレーターでコーヒーを煎れ2人で他愛もない会話をした。高校時代はめっちゃ仲が良いという訳では無かったが今はめっちゃ好きな存在だ。小学校の時に通っていた塾時代から知っているので、そういう意味では腐れ縁でもある。

 

久しぶりにノモトに会った。内定が1つ出そうで少し落ち着いたところだった。その1つが出るまでの間に沢山の企業に落ち、凹んだり、自己喪失感に襲われたりしたと言っていた。そらそうだ。人間は見知らぬ世界を恐がり、嫌がる生き物だ。特に日本人の祖先は逃げ回った結果として日本大陸に辿り着いたらしいので日本人のルーツは立ち向かうよりは逃げる性質を持ち合わせているらしい。

 

 

おれも今は全てから逃げ出したい。どんだけおれらなら出来る!やってやろう!世界にBKWを!!と約束を共に呑み交わしても、内心ホントに通用するのか、貫き通せるのか、今放ったコトバは正しかったのか。疑心暗鬼で先が見えないこの現状に疲弊していく毎日だ。全てが信じられなくて根拠のない自信たちが逃げていきそうだ。ちなみにBKW!!とは番狂わせと言う意味で、ダークホースを現す。

 

 

チャンスはいつでもあるように見えて実際は限られたモノである。という言葉をどこかで見た。頭の中では理解したフリをしてみても、今はそのチャンスがそこに転がっていたとして全ての犠牲を払って全てを賭けられる余裕はない。

 

 

余裕は全てを豊かにしてくれる。つくづく思う。その度にもっと強かったら、、と落ち込む日も少なくない。頭の中や心の中が"messed  up"な状況であれば、簡単に正解を導くことは難しくなるだろう。"clean up"しなくちゃ。

 

 

 

今は全てから逃げ出して、山のずっと、ずっと奥の方で孤独を抱えながら焚き火を眺めて、ふと夜空に浮かぶ満天の星を見て、いるべき場所に帰りたい。

 

調子の良い時の自分が隣にいれば"どーした!らしくないなぁ、失敗なんか今までめっちゃあったやん。オーダー通りの結果が来ても結末知ってもうたドラマ見てんのと同じやで"とハニカミながらビールを片手に言いそうだ。

 

 

 

小学校6年間エレクトーンの大会で緊張したことは無かった。常に自信があった。でもその奥には誰にも負けていないと確信できる日々の努力があった。全てを犠牲にした。遊びたくても遊べなくて自分の環境を憎んだあの時間も、優勝トロフィーを貰って観客席に座っている家族に掲げガッツポーズをしたあの瞬間も、小学校の帰りにマンションの9Fまでエレベーターを使わずにゆっくり階段を登った日々も、本番中にスポットライトを浴びて汗が出てくるあの感覚も。あの時間に得たものは今、自分のかけがえのない財産で過去の栄光だ。

 

 

後ろを振り返って立ち止まれば一瞬痛みや苦痛からは逃げられるかもしれない。でも一瞬でも立ち止まれば、その先追い風が吹かないことを既に知っている。

 

 

帰り際明日面接を控えているアオピとハグをした。色んなことを考えると涙が出そうで気の利いた言葉は出てこなかった。頑張れと伝えたかった。大丈夫、きっと長く感じたこの夜も気づけば明けていくことを今のおれらは知っている。そう願ってキャスターのフィルターをちぎった。

 

 

 

ゴールドエクスペリエンスの鎮魂歌を探して夜と向き合うAM2。まだ波の音は聴こえない。